生徒へのメッセージ(校長より)

公開日 2020年04月22日(Wed)

R2.4.22

 生徒へのメッセージ


  「算術の少年 しのび泣けり 夏」(西東三鬼)
 これまでの教員生活を通して,受験生となる夏休みでさえ,黙々と一人机に向かうのは容易ではないことは分かっているつもりです。それが,まだ,新年度が始まったばかりの風薫るこの時期に,これまで,だれも経験したことのない外出自粛の休業日がやってくるのです。自ら問いに対して悩み,苦しみ,分からない自分自身に対して涙しても,横にいて教えてくれる師も友もいない。
   南日本新聞4月20日付のコラム「南風録」に


 こんな小話がある。アメリカの大金持ちが,『全財産をはたいてもかなえたい望み』について質問され,答えた。「『ハックルベリー・フィンの冒険』をまだ読んでいない状態に戻してほしい」。子どもの頃,息もつかせず読みふけった興奮を取り戻せたら・・・

 

と。あの感動を純粋な気持ちでもう一度味わいたい気持ちは大人なら誰でもわかる気がします。高校生の時,化学の習い始めで,なかなか理解できなかった「結合と結晶」のところが,「分かった」瞬間は今でも覚えています。その前と後で,自分の周りの「モノ」が「物質」に変わった瞬間であり,世の中を見る景色が変わったと言っても過言ではありません。覚えることは忘れることと可逆的ですが,「わかる」ということは不可逆です。もう,前に進むしかないのです。
 新型コロナウィルスの感染症拡大による休校措置は,病気そのものもですが,皆さんの部活動や学業へのやる気や,さらには物事に対する興味関心をも奪ってしまうのが怖いです。知識は体験や経験により知恵に変わり,これからの人生における困難に立ち向かう勇気を得ることができます。今は,知識をしっかりと蓄えておいて欲しいと思います。学校が再開したときに,その知識を知恵へ変えてくれる多くの協働による体験が待っています。
 まだ,習っていない新たな分野へチャレンジするのもいい,習ったのになかなか理解出来なかった分野をもう一度わかるまで何度も何度も食らいついてみるのもいい,どっぷりと読書の海に乗り出すのもいい。一日何もやらなければゼロのままです。何か1つでも取り組んでいけば必ず積み重なっていきます。2週間後には必ず,自らの変化に気づくはずです。それを楽しみに,この機会を主体的に取り組んで,ひとまわり逞しくなった君たちに会えることを先生方と楽しみに待っています。

※私のお勧め本:「生物と無生物のあいだ」(福岡伸一著)
・・・今,世界は新型コロナウィルスにより未曽有の危機にさらされています。ウイルスとは自己複製するシステムを有するが,代謝がなく,特殊な環境下で精製すれば結晶化する無機物的な面もあり,生物なのか無生物なのか,読みながら平衡という意味も含めて考えさせてくれます。

校長 田嶋吾富